Last Prisoner 教師を愛した私
父親のライターだ。

ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ。

ちゃぷ、ちゃぷ、ちゃぷ。

灯油はまくたびに音を立てた。

人が来る前にまいてしまわないと。


舞は一通りまき終えると、鞄の中からライターを取り出した。

ゆっくりと火をつける。
家は静かに、でも勢いをつけて燃え始めた。

舞は灯油缶を抱えて、隣の家の裏の、竹林に逃げ込んだ。


やってしまった…。


呼吸が少したかぶっている。

遠くで「火事だ」と叫ぶ声が聞こえる。

舞は笑いだしたくなるような心境だった。

これで、お父さんとはお別れだ。

やっと自由になれるんだ。


サイレンの音を聞きながら、舞はその灯油缶を竹林の中の古井戸に投げ込んだ。

誰も見ていない。

ここに捨てればきっとわからない。

舞はそれから燃え盛る自分の家の前を横切り、友達の家に遊びに行った。

父親は幼い犯罪者の手によって葬り去られた。

目撃者はおらず、放火と警察は結論づけたけれど、証拠は見つからなかった。

舞は完全犯罪を成し遂げたのだ。


事件はいつしか風化し、舞が自分の犯した犯罪を思い出すこともほとんどなくなっていった。
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