彼の瞳に独占されています
夕日のせいか、少し切なげな色が滲むそれは、嘘をついているようには見えなくて……久々に、心臓がドクンと大きく動く。

もし本当に、あのとき俺のことを好きだったなら、それだけで報われるような気がした。

俺も同じだったのだと伝えたいが、そうしたところで気まずくなるだけだろう。愛しく想う気持ちも、再び膨れ上がってしまうばかりだろうから……。


「そんなふうに言ってもらえると、冗談でも嬉しいわ」


当たり障りなく笑って言い、萌から目を背けた。

“本気だった”という彼女の気持ちは、もう過去のもの。それに縋りつくなんてみっともない。

再び良い友達の顔をしてアドバイスしてみれば、彼女の口からはお決まりの“親友”という単語が飛び出す。

この関係を続けることで、俺に変わらない笑顔を向けてくれるなら、それだけでいい。


──夜空の下、背中に彼女の存在を感じながらバイクを走らせる。

チャリの後ろに萌を乗せて走った時も、今日みたいに綺麗な星空が広がる日だった。

あの頃と同じように、今もずっとこうしていられることが嬉しい。……萌は、そんな昔のことはとっくに忘れているだろうが。

俺だけがあの頃から抜け出せていないのだと思うと、どうしようもない寂しさに襲われる。それから逃れるように、ひたすら無心で風を切った。

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