彼の瞳に独占されています
萌を家に送り届けた後は、そのまま夜勤の警備に向かった。
非番明けの今日、午前中の巡回をしていると、いつも通り話している萌と弥生ちゃんの姿を見つけた。どうやらちゃんと仲直りできたらしい。
そのことにほっとしつつ仕事を続け、一階のエスカレーター付近でショッピングカートを整理していると、「淳一さん!」と呼ぶ声がした。
振り向くと、片手に財布を持った弥生ちゃんが、笑顔でこちらに近づいてくる。今日は萌とは時間が違うようだが、これから休憩なのだろう。
「弥生ちゃん、お疲れ」
「淳一さんって本当に気が利きますよね~。カートの片付けまでやってくれるんだもん」
「何でもやりますよ」
ガシャン、とカートを綺麗に戻しておどけてみせると、弥生ちゃんは無邪気に笑った。
すると、ふいに彼女の表情が真面目なものになる。
「あたしは、そんな淳一さんのファンですよ」
ファンだなんてかなり大袈裟だが、そんなことを言ってくれる気持ちは素直に嬉しくて、俺も微笑み返した。
しかし、弥生ちゃんは何かを思案するように目を伏せ、数秒の間を置いてこんなことを言う。
「……淳一さんは優しいから、自分より人のことを気にかけるかもしれないけど、たまには自分勝手にやっちゃうときがあってもいいんじゃないですかね」