彼の瞳に独占されています
唐突な言葉にキョトンとする俺は、「え?」と声を漏らした。弥生ちゃんは苦笑しながら、特に俺とは関係なさそうな、萌とのことを話し出す。


「あたし、この間先輩とケンカしちゃったんです。本気で好きなわけじゃないのに、条件だけで付き合う恋愛を繰り返してる先輩に、ちょっとイラッとしちゃって」


バツが悪そうに肩をすくめて本音を漏らした彼女は、真剣な表情で続ける。


「でも、先輩がそんなことをするのには理由があったんですよね」


萌が上辺だけの恋をしていた理由、か……。

彼女の家庭が金銭的余裕がなくて苦労していた境遇を知っているから、経済力がある男を選びたくなるのは仕方ないことだと思う。

しかし、本当に理由はそれだけなのだろうか。萌がそんな軽い女だとは、俺はどうしても思えない。

一昨日、切なげな瞳で海を眺めていた彼女を思い出しつつ、考えを巡らせていると、弥生ちゃんがまっすぐ俺を見据えていることに気づく。


「先輩、本気で好きな人をようやく見つけたみたいで。今度こそうまくいくんじゃないかな、と思うんです」


──ドクン、と胸の奥で重い音が鳴り響いた。

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