彼の瞳に独占されています
仕事を再開しなければならないのに、俺は立ち尽くしたまま、あいつの姿を思い浮かべる。

これまで何度も萌の恋愛話を聞いたが、そのたびダメになっていた。だから新しい恋の話を聞いても、きっとまたうまくいかないだろうと、心のどこかで高を括っている部分もあったのだ。

だが、今回は違うとなれば、激しく危機感が湧いてくる。

萌が、本当に誰かのものになってしまう前に、なんとか阻止したい。それが、今の正直な気持ちだ。

十年もの間、抑えてきたというのに。こんな些細なことで、その栓が外れてしまうとは……。

──結局、どう足掻いても、俺は萌のことが好きなのだ。


再び湧いてしまった恋心を自覚し、ため息をつきながら巡回に戻る。珍しく身が入らず、上の空になりつつ平穏なデパートの一日を見守っていた。

しかし、業務も終わりに近づいていた午後六時頃、たまたま二階を見回っていた俺の目に、見たくはないツーショットが飛び込んできた。

私服姿の萌と、その隣に寄り添うスーツ姿の男。彼は顔見知りだし、萌の上司であることも知っているが……。

萌が酔っ払い客に絡まれたあの時、とても心配そうに駆け寄ってきた彼。その危惧する様子が、俺にはただの部下に対するものではないように見えた。

< 105 / 124 >

この作品をシェア

pagetop