彼の瞳に独占されています
彼も、萌のことを大切に想っているのではないか。

あの時、わずかに芽吹いたその疑惑が、親密そうに微笑み合うふたりを見た瞬間、確信に変わり始める。

ふたりはきっと、ただの仕事仲間ではない。

弥生ちゃんが言っていた、萌の本気の相手というのも、彼のことなのかもしれない……。

ふたりの姿がカフェへと消えていくのを、俺は呆然と眺めていた。心が、嵐を受けた木のように、ざわざわと大きく揺れるのを感じながら。

その中に、揺らがないひとつの決意も生まれていた。



──午後八時に業務を終えると、ある場所に向かってバイクを走らせる。

頭の中では、昼間の弥生ちゃんの言葉がぐるぐると回っていた。


“後悔しないように”


昔も今も、萌に想いを伝えなければ後悔するということはわかりきっている。

それでも、彼女の気持ちや、想いを伝えた後のこと、警備員とクライアントという立場を考えると、どうしても踏み止まってしまっていた。

しかし。


“たまには自分勝手にやっちゃうときがあってもいいんじゃないですかね”

“先輩と淳一さんの関係は、きっとどんなことがあっても崩れないから”


その言葉たちには、一度くらい自分の想いのままに突き進んでもいいのだ、と思わされた。

すべてをぶちまけて、長かった片想いにケリをつける時が来たのだと。

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