彼の瞳に独占されています
勝手な言い訳をしつつ、リビングへ向かう淳一を追いかける。キッチンの前で足を止めた彼は、犬みたいに鼻をくんくんさせている。


「美味そうな匂いするな」

「……夕飯まだだからお腹空いてるんですけど」


キッチンのテーブルに置きっぱなしの缶ビールを隠したい気持ちでいっぱいになりつつ、口を尖らせる私。

もー、もっと女らしいところを見せようと思った途端に来るなんて、本当にバッドタイミング……。服もかろうじてヨレヨレではないゆるゆるTシャツだし、太もも出しちゃってるし、めちゃくちゃ着替えたい……!

そんな複雑な乙女心を私が抱いているとは知る由もないだろう淳一は、彼の定位置である、小さなローテーブルを挟んでテレビが正面にくる位置に腰を下ろした。


「悪いな、こんな時間に急に来て」


今さら謝る彼に、仏頂面をする私はぶっきらぼうに言う。


「わかってるなら出直して」

「それは無理」


ぴしゃりと拒否され、私はさらにぎゅっと眉根を寄せる。

なんか、いつになく強引じゃない? そんなに私に何か用があるの?

訝しげな目線を送っていると、淳一は手に持っていた小さなビニール袋をテーブルに置いた。そこから顔を覗かせたものを見て、私の目は一瞬きらりと輝く。

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