彼の瞳に独占されています
「なんで、永瀬さん……?」

「さっき見たから、ふたりで喫茶店入ってくとこ。前からなんとなく親密そうだなと思ってたし」


淳一、見ていたんだ……。それで誤解しちゃったのね。

永瀬さんとの間にあったことは何も話していないから、説明しておかないと。


「実は、この間告白されてね。そのお断りを」


ちょっぴり気まずさを感じつつ端的に言うと、淳一は安心したようなため息をつきながら、頭を垂れる。


「なんだ、そうか……弥生ちゃんはわざと思わせぶりなことを……」

「弥生ちゃん?」


ぶつぶつと呟く独り言に、なぜか弥生ちゃんの名前が出てきて、私は首をかしげた。

彼はそれに関して詳しいことは言わず、垂れた前髪の隙間から少しの憂いを帯びた瞳を覗かせ、口元を緩ませる。


「……よかった。もう友達でいるのも限界だったんだ。萌に嫌われてもいいから、気持ちぶつけたくて」


こぼされた本音に、胸が締めつけられる。そんな覚悟をして告白する勇気が、私にはなかったから。

綺麗な切れ長の瞳を見つめていると、視線が絡まった。

こちらに伸びてくる彼の手が、そっと頬に触れ、トクンと胸が優しい音を立てる。


「昔は、萌に嫌がられたらと思うと怖くて、触れるのもためらってたんだけどな」


その言葉を聞いて、彼が私に何もしてこなかった理由が初めてわかった。

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