彼の瞳に独占されています
私の休憩時間である午後一時半まであと十分あるけれど、永瀬さんのお言葉に甘えて早めにランチをすることにした。
私達の社員食堂は、隣のビルの二階にあるため、一度デパートを出なければいけない。休憩時間が同じ弥生ちゃんと連れ立って社食へ向かうのが日課だ。
貴重品を持っていくこともあり、彼女と落ち合うのはだいたいロッカールーム。今日もそこへ向かおうと売り場を出た直後、階段を上ってきた警備員と出くわした。
百八十センチはあるだろう長身の彼を見上げると、紋章が入った制帽の下の、切れ長の瞳がわずかに開かれる。
「よぉ、お疲れ」
白い手袋をした片手を軽く上げるこの人は、昨日電話をした相手、腐れ縁の淳一だ。
肩章が付いた濃紺のジャケットに身を包んだ、彼にとっての戦闘服姿は、警察官のように凛々しく、とてもよく似合っている。
気を許した笑みを浮かべ、私も「お疲れ様」と返した。
大手警備会社に所属している淳一は、この楠木百貨店の常駐警備員として働いている。
まさか就職してからも同じ職場になるとは。私達はどれだけ縁が深いんだ……と、彼の配属が決まった時は、お互いもう笑うしかなかったっけ。
でも淳一がいることで、いい意味で力を抜いて働くことができている気がする。