彼の瞳に独占されています
「へ?」


チキン南蛮にかぶりつきながら間抜けな声を漏らすと、前屈みになる彼女の綺麗な顔がずいっと迫ってくる。


「スーツじゃないけど、あの制服姿はヨダレものじゃないですか! イケメンだし、性格だって優しくて面白いし、淳一さんのこと狙ってる販売員も多いんですよ?」


突然鼻息を荒くする弥生ちゃんに、私は目をしばたたかせる。

淳一がこの楠木百貨店の中でも人気だということは、もちろん私も知っている。淳一が売り場を通ると、社員だけでなくお客様も目で追っているという話も聞くし。


「先輩達は息ぴったりだし、付き合わないことの方が不思議なんですけど」


大きなふたつの瞳が、じっと私を見つめる。

容姿が良いだけでなく、人柄も良い。そんなあいつとなぜ私が付き合わないのか、たしかに疑問かもしれない。

昔の、ある記憶をほのかに蘇らせつつ、私は口を開く。


「私達はずっと前から友達だもん、今さらお互い恋愛対象として見れないよ。それに、大手の警備会社に勤めてるといっても、警備員ってそんなに年収多くないしさ」

「また経済力気にしてるー」


不満げにむくれる弥生ちゃんだけど、私はあはっと笑い飛ばした。

今のはその場しのぎで、本当はまた別の理由がある。淳一とは友達のままでいようと決めた、もっと複雑な理由が──。




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