彼の瞳に独占されています
◇恋の始まりを予感させるひと


失恋から数週間が経ち、あちこちの店舗でサマーセールが始まっている七月上旬。私達ももうすぐ催事場で紳士服のセールを行うため、その準備に追われている。

もうすっかり浮名さんのことは頭から消えていて、前ほどお客様を品定めしてしまうこともなく、真面目に仕事に励んでいた。


昨日の日曜に比べると、今日はだいぶ余裕がある。先に休憩に入っていた、アラフィフの女性社員である山浦(やまうら)さんも、ゆったりと社食から戻ってきた。

一旦売場の奥にある事務所に入っていった彼女は、そこから出てくると、ニコニコの笑顔で私に近付いてくる。


「萌ちゃんもよかったら後でお菓子食べて。事務所に置いておくから」

「あ、ありがとうございます!」


やったー、予期せず甘いものが貰えると嬉しいのよね!

お菓子というワードにあからさまに反応して、ぱっと表情を明るくする私。いつも私に良くしてくれる山浦さんは、自分の子供を見るような顔でクスクスと笑っていた。


客足が途絶えたところで、私も休憩することにして事務所に下がる。お客様のデータが詰まったファイルが並ぶ棚と、パソコンのデスクやミーティングテーブルがある、スタッフ六人で使うのにちょうどいいくらいの、小さな部屋だ。

その中へ入ると、立ったままパソコンのマウスを動かしていた永瀬さんが、こちらを振り向いて微笑んだ。

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