彼の瞳に独占されています
雷に打たれたような衝撃で固まっていると、彼はポリポリと頭を掻きながら呆れたように言う。


「やっぱり覚えてないのか。俺達が会った時のこと、よく思い出してみなよ。酔っ払った萌ちゃんが駅でフラフラしててさ……」


私は露わになったままの胸を隠すことも忘れて、約三ヶ月前の記憶を手繰り寄せる。

あの日、私は大学で入っていたサークルのOB達と、学生時代のノリで飲んでいた。久々にかなり酔っ払って、家からの最寄り駅をひとりでさ迷っている時に、浮名さんと出会ったのだ。


『危ないな、大丈夫ですか?』


電車を降り、ホームでフラフラしていたところで腕を掴まれた。ぼんやりした視界にネイビーのスラックスが目に入り、もしや駅員さんが助けてくれたのかと敬礼する私。


『あ、すいあせん、お疲れ様れーす』

『俺、駅員じゃないんだけど』


苦笑を漏らすその人を見上げると、制帽は被っていないし、たしかに駅員さんではない。

身につけているのは、細身で小綺麗なスーツ。酔っていても、それが彼にしっくりと馴染んでいるのがわかり、ドキリとした。

醤油顔とでも言うのか、飛び抜けたイケメンではないけど、愛嬌のある優しい顔立ちも好印象で、私はすぐに彼を魅力的だと思った。

つまり、一目惚れ。

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