彼の瞳に独占されています
『イルカは魚じゃないって知ってたか?』


スイスイ泳ぐイルカを眺めながら、今さらなことを言う淳一を、私は冷めた目で見やる。


『当たり前じゃん。哺乳類でしょ』

『へー、萌でも知ってたんだ』

『バカにしすぎだから』

『じゃあ、ピンク色のイルカが実在するってのは?』


得意げな顔で聞いてくる彼を、疑わしげに見つめて一言。


『嘘だ』

『それが本当なんだよ。場所はよく知らねーけどいるんだってさ』

『全然説得力ないし』


そんな調子で、ショーから目を逸らして言い合っていたその時。

──バッシャーン!と、大きな水しぶきが上がる音と、周りから小さな悲鳴が聞こえ、頭から冷たいものが降りかかった。

一瞬わけがわからなかった私達は、水が滴り落ちるお互いの顔を、目をぱちくりさせて眺めるだけ。

前列は濡れるというのを承知で座って、それ防止のためのレジャーシートも用意されていたのに、話に気を取られて身を隠すのをすっかり忘れていたのだ。


幸い着替えなければいけないほどではなかったけど、見事に濡れた私達はお互い大笑いして、周りの友達からも笑い者にされてしまった。

その後は、髪や服が乾くまで一緒に外を歩いたんだよね……。

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