彼の瞳に独占されています
私はひとり思い出し笑いしそうになって、さりげなく口元を手で覆った。

楽しかったな、あの頃。私の記憶にはだいたい淳一がいるから、どうしても思い出しちゃって……困るよ。

今、隣にいるのはまったく違う人なのに。


高くジャンプするイルカから、永瀬さんにちらりと目線を移した。

それに気付いた彼は、ふっと笑みを浮かべる。周りの拍手や歓声に掻き消されないよう、私に顔を近付けて「すごいな」と言い、私も笑って頷いた。


この人となら、絶対あんな失敗はしないだろう。

その失敗を、大口を開けて笑い合うことも……。

今だって楽しい。それは確かなのに、何かが物足りないと思ってしまうのは、どうして──。



ショーを見終えた後、再び館内に戻った私達は、これまでより一層暗く、ふわふわと浮かぶ綺麗なクラゲがたくさんいる場所にやってきた。

自然と手を繋いだまま、ひとつの水槽に近付き、ぽかんとしながら見上げる。


「きれーい……。クラゲってなんか癒されますよね」

「あぁ。こうやって漂っていたくなる時もあるよ」

「なんかわかります、それ」


たわいない会話をして小さく笑い合い、永瀬さんの方に目を向けると、いつの間にか顔が近付いていたことに気付いてドキッとした。

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