彼の瞳に独占されています
反射的に離れようとした瞬間、少し身体がよろめいた私を、永瀬さんはとっさに背中に片手を回して支えてくれる。


「大丈夫?」

「すみません、ちょっとよろけただけなんで……!」


笑ってごまかすけれど、急に縮まった距離のせいで、心臓が活発に動き始める。

私から手を離そうとしない彼をゆっくり見上げると、暗い中でもその瞳が妖艶な熱を含んでいることがわかった。


「……水族館はやめておけばよかったかな」

「え?」


ぽつりとこぼれた一言の意味を汲み取れずにハテナマークを浮かべると、永瀬さんは困ったような笑みを見せて言う。


「気持ちが先走りそうになる。理性を保つのもやっとだ」


──きゅっ、と胸が締め付けられる。

やっぱり、永瀬さんは私のことを……?

心拍数が上がりまくる中、見つめ合ったまま視線を外せずにいると、ふっと背中にあてられていた手の感覚がなくなった。


「そろそろ行こうか。お腹空いただろ」


さっきまでの距離を取り、何事もなかったように言う彼は、いつもの紳士的な上司だ。

しかし、彼の大きな手は私のそれに絡ませられる。その熱さに、もうただの上司ではないのだと思い知らされる。

望んでいた展開になりそうで、嬉しいのに……なぜか私の胸の奥に、喜び以外の正体不明の感情がくすぶっている気がした。


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