彼の瞳に独占されています
一口含んでみると、優しい甘さでとても飲みやすい。


「うん、美味しい! どんどん飲めちゃいます」

「アルコールは低めだから安心して。でも飲み過ぎないでね、また変な気起こしちゃいそうだから」


“変な気”って。優雅にグラスに口を付けながらそんなことを言うから、なんだかおかしくて笑ってしまう。


「永瀬さんはそんなことする人じゃないでしょう」

「……君はまだわかってないね。僕も普通の男だってことを」


目を伏せる永瀬さんの意味深な言葉と、コトンと置かれたグラスの音で、私の表情が引き締まる。


「まぁ、君の前では格好悪い姿は見せないようにしてるけど。仕事中じゃない今だって、余裕のある男を気取ってる」


苦笑する彼だけれど、本心を少しだけ見せてくれた気がする。

永瀬さん、もしかして結構気を遣って私と接していたのかな? そうまでしてもらうほど、私はたいした女じゃないのに……。


「そんな、もっと気楽にしてくれていいんですよ」

「ん……でもこれは癖みたいなものなんだ。ちょっと苦い思い出があって」

「苦い思い出?」


永瀬さんの表情にわずかに影が落ちたように見え、私は運ばれてきた前菜をよそに、彼をじっと見つめる。

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