彼の瞳に独占されています
私は惚れっぽいタイプだと昔から自覚しているけれど、それでも誰彼構わず足を開くような尻軽女ではない。

ただ、ただ……酔った勢いというものは恐ろしい。

浮名さんはタクシーで帰るからと、ついでに私を家まで送ってくれることになったのだけれど、その車中で……。


『これ、高級ブランドじゃないれすか! 素敵~!』


彼が着ているスーツがブランドものであることに気が付いた私は、興味津々でそれを脱がそうとしていたのだ。

最初はギョッとしていた彼も、すぐにいたずらっぽく口角を上げる。


『俺を脱がせてどうする気?』


スーツのボタンに手を掛けていた私の手を握り、獣のような瞳に変化した彼にまたドキリとさせられた瞬間──あっという間に唇を奪われた。

こんなことは初めてだった。出会ってすぐの男性とキスをするなんて。

でも嫌ではなかったし、何しろ酔っていたし、その場の雰囲気に呑まれてしまって、浮名さんがホテルへと行き先を変更しても拒否しなかった。


……その後は言わずもがな。元々経験が乏しい私は、彼のテクニックに溺れ、どっぷりハマってしまった。

だからなのだ、私が大事なことを聞き逃していたのは。

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