彼の瞳に独占されています
淳一は「お疲れ様です」と準備をしているスタッフに挨拶しながら、適当な場所に段ボール箱を置く。その様子を見た中年の女性社員が目を丸くしている。


「あらっ、警備員さんもお手伝い?」

「いえ、ちょっと腰悪くしそうなおばあちゃんがいたもので」


おい。と、にこやかに話す淳一に心の中でツッコミを入れる私。まぁたしかに、優しくて正義感もあるあいつは、困っている人を見るとすぐに助けてあげているけれども。

淳一の冗談に、社員さんは「え~」とおどけながら笑う。その様子を、私は少し離れたところから苦笑して見ていた。


私もそちらへ行こうとすると、制帽を被り直す淳一と目が合う。帽子のつばを持ち、上目遣いで私を見てくる姿にドキリとした。

この仕草も、ネクタイを緩める仕草くらいカッコいいのよね……淳一に限ったことじゃないけど、たぶん。

私の変なフェチが顔を出していることを知らず、彼はこちらに近付いてくる。


「じゃ、頑張れよ」

「あ、うん、ありがとう……!」


笑みを残して颯爽と見回りに戻る彼を見送りながら、思う。

もう両手塞がってないのに、ナデナデしてくれなかったな……

って、ここにはたくさんスタッフがいるし、向こうも仕事中なんだから当たり前でしょ! 何考えてんの……ちょっとおかしいよ、最近の私。

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