彼の瞳に独占されています
他の警備員も駆け付け、取り押さえられるのを見ながら、私は“ざまあみろ”と心の中であっかんべーをしていた。

すると、制帽を拾った淳一とふいに目が合う。

少し長めの前髪から覗く瞳に捉えられて、なぜかドキリとするけれど、一言お礼を言いたくて口を開いた。


「じゅんい──」

「萌ちゃん!」


同じタイミングで後方から私を呼ぶ声がして、反射的に口をつぐんで振り返る。

人の波をくぐり抜け、駆け寄ってくるスーツ姿のその人を見て、私は目を丸くする。


「永瀬さん……!」

「大丈夫か?」


心配そうな顔で私の両腕を掴む彼。「大丈夫ですよ」と言って笑みを見せると、安堵したように息を吐き出した。


「ちょうど仕事終わって、騒ぎを聞いたんだ。地下に寄って帰るって言ってたから、心配になって……」


永瀬さんはそう言いながら、すぐそばでまだ何か叫んでいる男を見る。

私もそちらへ視線を向けると、制帽を被り直した淳一は私に何も言うことなく、同僚と一緒に男をどこかへ連れていった。


お礼、言いそびれちゃったな……。後でメールでも電話でもすればいいのだけど、今言いたかった。

なんとなく胸が苦しくなるのを感じつつ、「何もなかったならよかった」と、心底心配してくれた様子の永瀬さんに笑顔を向けた。

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