彼の瞳に独占されています
口をつぐむ私を見つめたまま、少し眉を下げた弥生ちゃんは訴えるように言う。


「もう認めたらいいじゃないですか。……淳一さんのことが好きなんだって」


心の中でぐらぐら揺れていた積み木が、一気に崩れたような気がした。

これまで無理やり積み上げてきた、“淳一のことは好きになってはいけない”という気持ちが──。

乱れた心は私を動揺させ、つい張らなくていい意地を張ってしまう。


「違う……そんなんじゃないって。あいつ、学生時代から何も変わってないし、バカにしてくるし、私はもっと大人で紳士な人が──」

「だったら!」


テーブルをドン!と叩く音と、弥生ちゃんの荒げた声が、私のみっともない発言を断ち切った。

隣のテーブルで談笑していた人達も一瞬静まり返り、何事かと目をぱちくりさせてこちらを見る。けれど、私はそんなことも気にならず、初めて怒りを露わにする彼女を呆然と見つめるだけ。


「だったら、何で永瀬さんと付き合わないんですか? 上辺の条件で選ぶのは違うって思ったからでしょう? 自分の気持ちに嘘ついてそんなこと言ってたら、永瀬さんにも淳一さんにも失礼です!」


はっきりと言い切った彼女の声が、夜風に乗って私の心の奥まで届いた。

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