彼の瞳に独占されています
何か大きなきっかけがあったわけじゃない。

いつもの帰り道、クラスの誰々が付き合い始めたらしいという話をしていたら、淳一が何気なく言ったのだ。

『俺たちも付き合ってみようか』って。遊びに誘うくらい軽く、自然な感じで。

私も悩んだりせず、すぐに『いいよ』と答えて、ものすごく簡単にお付き合いが始まった。


でも、私は内心すごく喜んでいたことを、淳一は知らないだろう。だって、仲良くなった中学の頃から密かに好きだったから。

人が良くて、気を遣わずに話せて、他の女子よりちょっとだけ私を特別扱いしてくれる彼のことが、好きだった。

告白されたわけじゃなくても、彼が私と付き合ってもいいと思ってくれているだけで嬉しかった。


きっと、これから女として見てもらえる。ちゃんとした恋人になれる。

……そんな期待をしていたのに、いつまで経っても進展せず、友達という立場から抜け出せなかったのだ。

私は意識しすぎてしまい、いい雰囲気になってもぎこちなくなって。キスすらもできず、せいぜい手を繋ぐのが精一杯。

とにかく恥ずかしくて、甘い空気を感じると、無意識に自分から逃げてしまっていたのだ。

だから、好きだという気持ちすら伝えることができなかった。淳一も言ってはくれなかったから、あやふやなままだった私たちは、友達の先に進めなかったのだと思う。

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