彼の瞳に独占されています
萌の実家には友達と一緒にお邪魔したことがあり、そのときに会ったおじさんは、とても気さくで優しかったことを覚えている。

『うちのお父さん、おっちょこちょいでさー』と、萌の笑い話としてたびたび登場していたくらいだ。きっといい父親で、彼女も好きだったに違いない。

そんな愛する家族が、突然この世を去ったのだ。葬儀を終え、学校に出てきたときは気丈に振る舞っていた萌だが、辛くないはずがない。


何と声をかけたらいいのかわからなかったが、ただそばにいてやりたくて、その日の帰り道は一緒に家まで歩いた。

何も喋らない萌が心配で顔を覗き見ると、その瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちている。


『ごめん、淳一といると気が緩む……』


そう言って泣く姿は弱々しくて、今にも崩れそうで……俺は無意識のうちに彼女を抱きしめていた。

この手が支えてやれるのなら、いつでも、どこでだって差し延べてやる。

『いくらでもどうぞ』と、気が利いているのかどうなのかわからない一言をかけると、彼女はしばらく腕の中でしゃくり上げていた。


このとき、はっきり自覚した。

これからもずっと、萌の一番近くにいたい。悲しいときも、苦しいときもそばにいて、俺が笑顔にさせてやりたい。

彼女を何よりも愛おしく思っていることを、思い知ったのだ。

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