彼の瞳に独占されています
……いや、まったく恋心がなかったとは言い切れないか。

酔っ払い客から助けたあの時、『どんな仕事でも、誇りを持って一生懸命働いてる人をバカにしないで!』と、言い返した彼女。

スペックを気にしているあいつらしくない発言に驚いたものの、素直に嬉しかった。しがない警備員じゃ萌にふさわしくねぇか、と自嘲していたが、そんなふうに思ってくれているだけで救われる気分だった。


だからつい、『萌に手を出すのだけは許さない』なんてことを言い放ってしまったのだ。

仕事上でだけじゃなく、男として彼女を──大切な人を守りたい。そんな勝手な想いが、一瞬膨れ上がってしまって。

萌が特別な存在であることは、きっとこれから先も変わらないだろう。結局俺は、高校時代から何も変わっていないのかもしれない。



萌への想いが再び溢れそうになる予感を抱きつつ、それを押し殺そうとしているさなか、彼女と弥生ちゃんが言い合っていたという情報が耳に入った。

仲の良いふたりがケンカをするなんて初めてのこと。何があったのか気になるが、それより萌が心配だった。

弥生ちゃんが先に帰っていったという話から、彼女の方が怒っているのだろうと推測すると、きっと萌は落ち込んでいるはず。

こういうとき、本当は放っておくべきなのだろうが、世話焼きの俺にはそうできなかった。

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