その羽根を僕にください
「20はどうして…わかるの?」

僕達の間に穏やかな風が吹いた。
常に優しい笑みを浮かべている20は何もかも見透かしそうな眼差しを僕に向けて口を開いた。

「今はまだ言えない」

「えー!何だよ、それ」

僕は足を投げたして寝転んだ。
少し拗ねながら体を横にして下を見つめる。

「…みんな、忙しそう」

僕のせいだ。
死んじゃったから。

「20」

僕は彼女の方を見た。

「もう一度、みんなの近くに行って良い?」

「…棺桶の中の自分に入るの?」

20、僕はそんなに未練たらしくない。

「傍にいたい。
このまま離れていると、何だかみんなの事を忘れそうな気がして」

今、ここにいる場所が全ての事を忘れさせるような気がする。

みんなの事も、僕がバイクに乗っていた事も。

「いいよ、行こう」

20はその柔らかい手で僕の手を握りしめた。

不思議だ。
20と手を繋ぐと心が落ち着く。

その瞬間、僕は父さんと母さんの向かいに座っていた。

二人とも、疲労の色が濃い。

「ではこの手順で進めます」

葬儀屋の担当者との打ち合わせに忙しそうだ。
その担当者がその場を離れると父さんが大きくため息をつく。

「拓海が俺より先に逝くなんて思いもしなかった」

独り言のように言い始める。

「あいつは昔から…どこか冷めている部分があって。
人間離れしているというか何というか」

母さんは黙って何度も頷いた。

「真由ちゃんと出会って少しは本来の高校生に目覚めたのかなって思っていたのに。
人を好きになる感情を覚えたのに…」

父さんの目から涙が溢れた。
僕は堪らなくなって父さんの背中に回るとそっと後ろから抱きついた。
すぐにその体を通り抜けてしまうので背中の輪郭を抱きしめるように。

「ごめん、本当にごめんね」

その言葉しか出てこない。
胸が苦しくなって思わず嗚咽を漏らしてしまう。

母さんも両手で顔を覆った。
母さんの背中にも抱きつく。

「ごめん、母さん…」

その肩が小刻みに震えて、小さくなった背中が悲しかった。
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