その羽根を僕にください
多くの人々が通夜に来てくれた。
本当に申し訳ない。
全ての人に謝りたい。

こんな死に方をして、ごめんなさい。
僕に希望を託してくれたのに…。

夜中になると人が少なくなり、棺桶の側にそーちゃんが一人でいてくれた。

じっと動かず、蝋燭の炎を見つめていた。



「拓海」

そう呼ばれる声に僕は反応する。

「…お前らしい」

そーちゃんは苦笑いをしながら頭を左右に振った。
僕はそーちゃんの目の前で座る。

「大好きな彼女を、精一杯守ったんだよね」

その目がきらり、と光った。

「…うん、それが僕に出来た『精一杯』」

そーちゃんにはこの声が聞こえないはずなのに。
僕の方を真っ直ぐに見つめる。

「お前なら、奇跡を起こせると思ったんだけどな。
瀕死であっても生き返って再び、自分の場所で生きていくって」

そーちゃん…。

「俺より先に死ぬなんて、酷い奴だよ」

そーちゃんは顔を伏せた。
目から涙が零れ落ち、頬を伝う。

「俺はお前が世界で一番になるのを見たかった。
本当に嫉妬してしまうくらい、拓海の才能は凄かった。
俺なんか、到底敵う訳がない」

痛い…。
そーちゃんの気持ちが堪らなく痛い。

「このロードレース界は大きな宝を失った。
この後、しばらくは混沌とした状況が続くだろうね」

涙を拭おうとしないそーちゃんは再び、顔を上げた。

「拓海、聞いてる?」

僕は頷いた。
そしてすぐに20を見ると

「彼はあなたの事は見えていないわ。
でも、気配を感じているみたいよ」

20はそーちゃんの顔をじっと見つめていた。
顔というより、内面。

「拓海、もし…来世があるなら。
またいつでも戻ってこいよ」

そーちゃん…

「…来世も何も。
もっとそーちゃんと一緒に生きたかったよ」

僕はそーちゃんの手を握りしめようとしたけれど。

一瞬、掴みかけて通りすぎてしまった。

「…何だろ」

そーちゃんは手を握りしめる。

「…拓海、まだここにいるのか?
さっきから何だか妙な風を…感じるよ」

握りしめた右手の上に左手を重ねたそーちゃん。

僕もその手の上に自分の手を重ねた。
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