その羽根を僕にください
ここは居心地が良くて毎日毎日。
穏やかに過ごしていた。

自分が今まで生きていた世界もたまに覗いていたけれど。
どうやら時間の進み方が違うらしい。

あっという間に僕と真由ちゃんの子供が生まれ、それをそーちゃんが実子として育ててくれている。

そして拓海として生きた時代の、父さんが病気で亡くなった。

生と死が交差する。

「拓海―!!」

こちらに父さんがやって来たとき、僕を見た父さんは思いっきり僕を抱きしめたけど。
僕としては時々見ていたのでそんなに違和感はない。

ただ。
そーちゃんがレースを引退する時、チャンピオンが取れるかどうかの瀬戸際だったので。
チャンピオン争いをしていた池田さんには悪いけれど、少しだけそーちゃんに力を貸した。
僕が少しだけここで出来る事。

「そーがチャンピオンになったよ!!」

父さんに抱きしめられながら言われて少しだけ罪悪感がある。
まあ、でもそれはあの世の中では『運』で片付けられることなんだけど。
でも父さんにとって手塩にかけて育てたライダーなんだもの。
嬉しそうに言ってくれて良かった。

その後、そーちゃんと真由ちゃんの間に三つ子が産まれた。

「拓海は複雑じゃないのか?」

と質問されて首を横に振った。
そんな感情はもう、どこかに消えてしまった。
ただただ、ここでは皆の動向を見つめているだけ。
時々、気まぐれのような感覚で少しだけお手伝いをしたり。

それを僕と一緒に見届けた父さんはどこか違う場所に行ってしまった。
きっと、ここではもうしばらく会う事はない。

ただ、何となく、僕の心の中で何かが揺らぎ始めていた。

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