その羽根を僕にください
そのうち、そーちゃんもこちらにやって来た。

「拓海、随分と穏やかになったな」

なんて言われたけれど。
ここでは争いも戦う事も。
何もない。

「チャンピオン、見てたよ!」

と僕が言うとそーちゃんは僕に疑うような視線を投げて

「あれ、自分で言うのもなんだけど神掛かっていたと思うんだけど。
何か知ってる?」

うん、気が付かれているな。

「知らない」

とだけ答えた。

「そーちゃん、ありがとう」

一つだけお礼を言っておかなければならない。

「何が?」

「子供の事」

そーちゃんは呆れて

「本当に、大馬鹿者」

最初は怒った素振りを見せていたけれど、やがて笑って僕の頭を撫でた。

「でも、楽しかった。こちらこそありがとう」

…そーちゃんとはもう少し一緒に過ごしたかったな。
強く願えば、ここではそれも叶う。
けれど、僕にはもうそれほどここにいる時間が残されていない。

20が現れてそーちゃんをどこかに連れて行った。

「またどこかで会えたら、一緒にバイク乗ろうな」

ぼくはその、そーちゃんの笑顔が好きだったよ。

「うん、その時を楽しみにしている」

僕とそーちゃんは固く握手をして別れた。

拓海と総一の接点はここで終止符を打つことになる。



天国の階段をずっと上っていたんだ。
時々、人間の世界を振り返りながら。

でも、ふと振り返って。
物凄い勢いで運命が動き出している二人を見て。

この二人の為に戻ろうと思ったんだ。
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