その羽根を僕にください
20は明らかに焦っていた。

「もう、時間がないわ…」

そんな切なそうな目をされても。
何か自分の中にある大切なものを引き裂かれそうな感覚を覚える。

「人間での世界の1年はここでは1日。
…だからね、拓海。
もうお別れなの」

ふと垣間見る透と淡路さん。
あ、お父さんとお母さんの関係も上手く抑えたんだね。
透の家族たちと淡路さんは上手くやっていた。
僕が行かなくても幸せになりそうだけど。

「それは違うわ、拓海」

あ、また20に心を読まれた。

「それも違うわよ、拓海…いや」

20の瞳が艶やかに光る。

「21」

はい?

「それがあなたの本当の…、ここでの呼び名よ」

「はい?」

聞き返さずにはいられなかった。

「21、あなたがあの二人の間に生まれる事によって色んな人を救う事が出来るわ。
確かに家は普通の家より経済的には裕福だけど。心がね、寂しいの、みんな」

うん、それはわかる。
透がそうだった。
透の孤独を解放したのは…淡路さんだ。

「そう、だからあなたが行くの。
あなたはね、拓海として生きた人生の経験を活かして…。
彼らに幸せを分け与えていくのよ。
本当ならまだあなたは生まれ変わる時期じゃないけれど。
あなた自身がそれを望んだから私は止めない」

そう言うと20は僕に抱きついた。
大きな、美しい羽根がゆっくりと動く。

「…遠い昔、私とあなたは一つの魂だった」

本当に20の言う事は難解だな。

「あなたはまだここに戻ってきて間もないから思い出せないだけ」

ますますわかんない。

「遠い昔、私たちが一つだった時。
酷い殺され方をしたの」

僕の体に痛みが走った。

「で、ここに来る寸前、肉体から魂が抜け出た時に二つに分かれたの。
お互いがそれぞれ成長して、その成長が天辺まで辿りついた時。
もう一度、一つになれるように…ここの上の人たちが仕組んだの」

20はキラキラ光る天上を見上げる。

「だから『20』と『21』は対。
拓海、あなたは21なの。私の大切な片割れなの」

…そっか。

『対』

と言われてスッと納得した。

20は最初からどこか懐かしくて、そして悲しくて切ない。

「私の記憶、少しだけ分けてあげる」

20の額が僕の額に触れた。
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