その羽根を僕にください
一瞬、触れただけなのに膨大な情報が頭を駆け巡る。
そのほとんどが、辛い記憶だった。
自分が生きてきた今生がいかに恵まれていたか。

それでも、それぞれの時代を生きていた20は輝いていた。
絶望的でもどこかに希望を見出して必死に生きていた。

そして。

その時々に僕がいた。

兄弟姉妹だったこともあり、親子だったことも。
ただの友達の時も。
恋人だったり、夫婦だったり。



20は額を離して優しい目で僕を見つめる。

「私、あなたと過ごした時代はほんの一瞬だけでも楽しかった。
今回は…あなたが生きた時間が短すぎて会いに行けなかったけれど。
またいつか、会いに行くわ」

20は最後に思いっきり僕を抱きしめた。

「次、会った時は必ず思い出してね。そして微笑んで欲しいの」

「もちろん」

僕が頷くと20は嬉しそうに笑った。

「あ、そろそろね」

20が見つめている方向を見ると病院のLDRでは今、まさに子供が産まれそうな状態の淡路さん。
それを医師としても、父として夫としても見つめている透。

「じゃあね、拓海。
いや、21、私の片割れ。
またお互いが成長したら、一つになろう。約束」

20は僕の額にキスをした。



それからの記憶は…
< 27 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop