その羽根を僕にください
ああ、そうだ!
さっきまでの背中の痛みが消えている。
思わず背中に手を当てた。

何も感じない。

そして目の前にいる女の子を見つめる。

「…何、その羽根?」

まるで天使のような羽根が彼女の後ろから生えている。

「空を飛ぶ羽根」

彼女は天を指さした。
僕はその先を見つめる。
穏やかな光の球がそこにはあるように感じた。

「ふーん」

もう、それ以上聞くのが馬鹿らしくなって質問を止めた。

じゃあ僕。
皆とお別れなんだ。

視線を下に落とした。
モニターの心拍が低下し始めている。

「僕はもう、今、死んだ状態なの?」

下を見つめたまま聞く。

「うん、あなたは死んだのよ。
魂が出た瞬間にね。
まだ体は生きているから完全に死んだとは言えないけれど」

その黒く濡れた目。
お人形さんみたいだな。

「そっか…。
あのさ、もう一度、皆の近くまでは行ける?」

彼女は頷いて僕の手を取った。
そしてそのまま下に連れて行ってくれる。

人間はいつか死ぬ。
それは避けて通れない。

でも、最後に。
お別れだけはちゃんとしないとな。



僕がこれだけ冷静なのは常にそういう状況に置かれていたからなのだろう。
一瞬の判断ミスで命を落とす。
常に父さんから言われていた。

今回のは判断ミスでも何でもない。
彼女を…真由ちゃんを痛い目には遭わせたくなかったから。
でも、突き飛ばしちゃったのは悪かったな~…。
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