その羽根を僕にください
目の前の真由ちゃんは号泣している。

「真由ちゃん、そんなに泣かないでよ」

僕は手を伸ばし、真由ちゃんの頬に添えた。

でも、その頬は触れられなかった。
いくら力を入れても、真由ちゃんの頬には触る事が出来ない。

…さっきまで。
触れられた人に触れられない。

その瞬間、初めてどうしようもない寂しさが僕にのしかかる。

もう、真由ちゃんには会えない。
父さんも母さんも。
祥太郎も、そーちゃんも。
学校のみんな。
サーキットで会えた、ライバルでもあり、仲間でもある沢山のライダー。
そこから広がるチームスタッフ、ロードレースファン。

一筋の涙が溢れた。

「…最後に一瞬だけ、戻してあげようか?」

後ろから声が聞こえる。

「そんな事が出来るなら、ずっと戻して」

思わず彼女を睨みつけてしまった。

「それは出来ない。
上の人達との約束だし。
君の肉体もキチンとお返ししないとね」

美しい羽根をヒラヒラさせて人差し指を天上に向けた。

「一瞬だけなら私の力でどうにか出来るし上の人達も怒らないから」

そう言って彼女は僕の額に掌を当てた。

「後悔しないように、皆さんに御礼を言って来てね」

まるで自分の事のように言うんだな。
僕は急に瞼が重くなって目を閉じる。
そして今まで感じなかった重力を感じ、体ってこんなに重かったんだ、とか。
今、考えなくて良い事ばかりが頭に浮かぶ。



ゆっくりと目を開けた。
眩しい光が目の中に入ってくる。
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