その羽根を僕にください

『君に時間を与える事が出来るのは一瞬。
だから…どうしたいかよく考えてね』

羽根が生えた彼女は僕が戻る寸前にそう呟いた。



…真由ちゃんを抱きしめる時間もないのか。



ならば。

ここにいる全ての人へ向けて…。



重たい瞼をゆっくり開く。

みんな、僕が笑う顔が好きだってよく言ってくれたから。

みんなの悲壮な顔を見るのは辛いけれど。

しっかりと見つめて、微笑んでみせる。

あちこちから驚きの声が上がる。



どうもありがとう。
でも、ごめんね。

それが精一杯。



瞼を閉じる時に少しだけ目が潤んだ。

この世との、僕の肉体と永遠のお別れだね。



「おかえり」

目を開けるとまた僕は宙に浮いていた。

彼女の羽根…。
寂しそうに閉じている。

「ただいま」

思わず言ってしまった。



そして二人。
下を見つめる。

透のお兄さんが泣きながら僕の家族に死亡宣告をしていた。

更にその横では。

…真由ちゃん。
そんなに泣かないでよ。

泣いても、もう僕は真由ちゃんの隣にいる事が出来ないんだから。



「…みんな、君の事が本当に大好きだったのね。
ここにいる人達から悪い感情を一つも感じない」

「…そんな事がわかるの？」

彼女は頷いた。

「まあ、色々と」

そう言って伸びをした。

「…で、これから僕はどうしたら良いの？」

その問いに彼女の羽根は大きく動いた。

「う〜ん…。
実はまだ何も決まっていない」

「はい？」

何が決まってないのやら。

「とりあえず、私とこの場所と君が今までいた場所をウロウロしてみる？」

…それって。

「浮游霊みたい」

「あ、そうそう！そんな感じ！」

彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。