その羽根を僕にください
「少しは休めた?」

目を開けるのと同時に20の声が聞こえた。

一瞬、目を閉じたと思っていたのに僕が生きていた世界はかなり経っていて『柏原 拓海』としての肉体は棺桶に入れられていた。

「…少しだけ頭がスッキリした」

20にはそう答えると彼女は微笑む。

「…肉体、悲鳴を上げかけていたの、知ってた?」

思わず、眉をひそめる。

「かなり酷使していたのよ。
何度も拓海の中から悲鳴が聞こえてた」

僕は…酷使した覚えはないけど。

「精神が参ってくるとね、肉体もダメになるの。
拓海は気が付いていないかもしれないけれど見えぬプレッシャーに押し潰されそうになっていたのよ」

「…そんな感覚はないけど」

少しだけ、怒りが沸いてくる。
僕の事、知らないくせに決めつけないでくれる?

「…あなた、真由ちゃんと結婚するって言ったけど、実際には相当悩んでいたでしょ?」

「悩んでなんか…」

ない、と言おうとしたのに。
20の真っ直ぐな目を見て、言えなくなった。

「…好きだから」

20は僕の目をしっかりと捉えて続ける。

「真由ちゃんの事が好きで好きでたまらないから。
嫌われたくないから。
でも真由ちゃんは結婚に憧れていて拓海に付いてくるという意志が強くて…
真由ちゃんの意志に流されてしまった」

「20、あのね」

「そこがあなたの弱さよ、拓海」

20は僕の言葉を遮った。

「実際に真由ちゃんに危険が迫ったら理性がぶっ飛んでいたし。
人格が変わるくらいにね。
…もう少し、成長して欲しかったなあ」

…全く、好き勝手に言ってくれるよ、20は。



でも、反論出来なかった。

認めたくないからひたすら隠していた気持ちを…



引き出された、意図も簡単に。
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