ポプリ
「だから、一列に、並べと、言っている、だろうっっ!」

 琥珀のクラスに行くと、額に青筋を浮かべながら、列を乱した生徒に月蝕の切っ先を向ける刹那がいた。午前中まではきっちり結ってあった髪が若干乱れているような。

「……刹那おにーさま、大変そう」

 花龍は奮闘する刹那をしばらく眺めていた。

 相変わらず琥珀の前には物凄い行列で、やはり休み時間中に渡すのは無理そうだ。

「刹那おにーさま」

 花龍は生徒たちを整列させる刹那の制服を、つんつんと引っ張った。

「ん? 君は……」

 廊下を走る初等部児童の片割れ、ということは分かったが、そういえばこの女児の名前を知らないな、などと考えている刹那に、花龍はローズピンクの袋を差し出した。

「お仕事お疲れ様です。これ、琥珀おねーさまと仲良くはんぶんこして食べてください」

「むっ? 俺にもか?」

「はい」

「……心遣い感謝する。ありがたくいただこう」

 毎年琥珀に贈られてくるチョコを嫌と言うほど食べさせられて、この時期はチョコなど見たくもないのだが……という思いをチラリと過ぎらせたものの、刹那は袋を受け取ってくれた。

 花龍はにっこり笑って、その場を後にした。


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