ポプリ
 天神学園校舎内にある用務員室兼、小岩井家にて。

 雪菜が家族のためにバレンタインに用意したのは、餡がチョコのいちご大福だった。

「おいしいですか?」

 にこにこしながら訊ねる雪菜。

「……雪菜さんの作るものは、なんでもおいしいです……」

 そう静かに感想を漏らすのは、主人である小岩井防人。いつもは死んだ魚のような目も、この時ばかりは柔らかく細められていた。

「冬樹はどうですか? 甘過ぎませんか?」

 雪菜は息子の冬樹にも感想を求めてみる。

「………………」

 しかし冬樹はもくもくと大福を食べるばかりで、何の返答もない。雪菜は微笑んで頷き、会話の相手を小さな豆狸に移す。豆狸は満足そうな顔をして、こたつの中に潜り込んでいた。

「あらあら、豆ちゃん、食べた後に寝ちゃうと牛さんになってしまいますよ」

「ふ、ふううう~、おいしくてつい、食べ過ぎてしまいましたぁ。もう食べれませぇん……むにゃむにゃ」

 お腹が膨れて眠くなったらしい豆太郎は、仕えるべき主人の前で堂々とうたた寝を始める。それでいいのか、豆狸。

 しかし咎めるべき主人はにこにこ笑顔で豆太郎を見守っている。

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