ポプリ
「精霊憑依みたい……」

 花龍がそう感想を漏らすと、シオンがぱあっと顔を輝かせた。

「やっぱそう思うよな! ウィスプを憑依させたら俺もこんな感じかな! この主人公、全然強さをひけらかさないんだ。だけど兄ちゃんのピンチにはカッコよく助けに入ってさ! 凄いよなぁ、カッコイイなぁ。俺もこんな風になりたいなぁ」

 ドサドサと本を机に積み上げていたシオンは、ふと、自分の杏色の髪の毛に手を突っ込んだ。太陽みたいな色、と評されるその髪は、本人の性格を表すかのように元気よく跳ねている。

「でも俺、髪短いから、ここまで豪華な金色にならないんだよな。もっと伸ばすべきだと思う?」

 真剣な顔でそう訊かれて、花龍は少しの間シオンを見つめてから答えた。

「……重要なのは、外見じゃなくて、中身だから……」

「そっか! そのままの俺が好きってことだね! ありがとう!」

「ううん、そこまで言ってない」

 花龍は冷静な声で突っ込んだ。

 ふるふると頭を振ると、左右にふんわりと結い上げたシニヨンから垂れ下がる細い三つ編みが揺れた。いつもは緩やかに波打つミルクティ色の髪を下しているのだが、祖父母がやっている龍虎軒の店の手伝いをするときは、大抵この髪型だった。

 シオンは花龍の突っ込みなどまるで気にせずに話を進める。

「大事なのは中身。さすが花龍は分かってるよな。本当に強いヤツはその力を悪用したりしない。他の人に見せびらかしたりしない。影で努力するんだ、この主人公みたいに」

 シオンはそう言って、積み上げた本を花龍に差し出した。

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