ポプリ
 確かに自分たちには逆立ちしたって出来ないことを軽くやってのけるシオンを非常に羨ましく思ってはいるが、シオンには疚しい気持ちがまったくないのだろうということを知っているのだ。

 それをどこで判断しているのかというと、花龍である。

 花龍も他の女子同様、シオンには毎日セクハラまがいな破廉恥なことを言われている。

 けれども一度として、シオンが彼女に触れたことはないのだ。他の女子には息を吸うように気軽に触れられるシオンが、花龍だけは触れない。それは彼女が特別だからに違いなかった。

『好き』の感情を良く理解していなかった幼い頃は、まだ触れていた。

 けれどもある時期からシオンは花龍に触れなくなった。花龍が特別になったからだ。その想いは純情な思春期男子のものであった。

 そんなところが他の男子たちに、「なんだシオンも俺たちと同じなのか」と安心感を与え、そして優しく見守るだけの度量を与えていた。

 そして今、盛大にシオンに同情している。

 花龍、君は確かにシオンの特別なのだと。あれだけアピールされて気づかないなんて酷いよ、と。同情している。

 しかし花龍側の援護をするならば、彼女が恋愛に疎いのも仕方ないと言えた。

 彼女には幼い頃から幼馴染のシオンがくっついていた。他の男子など目にも入らなかったというか、シオンが盾となって他の男子の入る隙間を与えなかった。もう一人の幼馴染である、御三家に連なる大富豪、鳴海家の長男である七音の存在もまた、他の男子に遠慮をさせる。

 そういう環境の中育った花龍は超箱入り娘だった。恋心など学ぶ機会がなかったのだ。

 しかし、そんな鈍感な花龍であっても、さすがに周囲の視線には気づいた。

「……ええと。本気、なの?」

「俺はいつも本気だ。ちゃんと本気で、結婚を申し込んでいる」

 結婚。

 いくら箱入りとはいえ、その言葉に憧れがないわけではない。花龍もきっといつかは、なんて漠然とした夢を抱いている普通の乙女だ。

< 135 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop