ポプリ
 きちんとした答えを出すために、時間が欲しい。

 花龍はシオンにそう伝え、返事は保留にしてもらった。そうして悶々と悩みながら帰宅する。帰宅先は自宅ではなく、祖父母が経営する龍虎軒だ。

 週のほとんどを花龍、そして弟の麗龍は龍虎軒で過ごす。ロシア大統領直属の組織、インフィニティ・セクターのエージェントとして働く両親は忙しく、泊まり込みがほとんど。まだ子どもの花龍と麗龍には保護してくれる家族が必要だった。

「ほい、激辛四川風担々麺上がり!」

「小籠包出来たぞー」

「しまちゃんの杏仁豆腐、持ってけ~」

 厨房ではメインを祖母の龍娘が、デザートを祖父の虎次郎が担当。飯時でフル回転する店の中を、花龍は店の制服であるチャイナ服を着て忙しく動き回る。

 店には古くからの常連客も多く、小さい頃から龍虎軒で手伝いをしていた花龍に声をかけてくる者も多い。

 皆気のいい店主と看板娘に釣られてやってきた、同じく気のいい客たちだ。

 その客たちに出来立ての料理を運びながら考えるのはシオンのことだった。仕事中は目の前のことに集中しなければならないのに、どうしても今日はシオンのことが頭から離れない。

 シオンのことは好きだけれど、結婚したい好きなのかどうか、花龍には分からなかった。

 同じ日に生まれた従兄。生まれた時から知っている幼馴染。

 父親であるシンとともに魔物の徘徊する遺跡によく潜っているシオンは、強くて頼りになる。けれども破廉恥で、子どもっぽくて、どこか飄々としている彼と一緒にいると、弟の麗龍を見守るのと同じように、姉のような気持ちでいることもある。

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