ポプリ
 そんな風に考え込んでいたからか、酔っぱらった客が花龍に気安く触ろうとしていることに気付くのが遅れた。

「姉ちゃん、いいケツしてんなぁ」

 酒臭い息を吐きだしながら、花龍のお尻に手を伸ばしてくる客。

 龍娘や虎次郎、そして花龍の恐ろしさを知らない新規の客は、たまにこうして看板娘に手を出してくることもある。だから花龍もその対処には慣れているはずだった。

 なのにシオンのことばかり考えていたせいか、迫ってくる手の厭らしさがやけに感じられて鳥肌が立った。

 同じことをしようとしているのに、なんでこんなにも違うのだろうと、シオンの爽やかな笑顔と比べてしまって。少しだけ身を竦ませた。

 と、そこに。

「花龍に手を出すな、このゲス野郎!」

 幼くかわいらしい声とともに現れた小さな弾丸が、その客の手を足で払い落した。

「麗龍……」

 花龍は厭らしい客との間に入ってきた小さな弟に目を丸くする。

「いって、何すんだ、このガキ……!」

 酔った客はいきり立って麗龍に掴みかかろうとしたものの。

 ひゅっと空気を割いて飛んできた中華包丁に、動きを止めた。見ると厨房から鬼のような形相で龍娘が包丁を、虎次郎が銃(に見える水鉄砲)を、それぞれ構えていた。

「ウチのかわいい孫たちに何か用か? 用があるならこの私と虎次郎の相手をしてからにしてもらおうか……」

 ジロリと睨みつけられて、客は一気に酔いが冷めた。

 ひいい、すみませんすみませんと土下座するその横を、麗龍が花龍の手を引いて通り過ぎていく。


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