ポプリ
「ねぇねぇ、リィちんに琴音ちん、見て見てぇ。この間シンくんと一緒に潜った迷宮で出てきた指輪ー」

 涼やかな風の吹き渡る昼下がり。

 橘本家の花の咲き乱れるイングリッシュガーデンにある東屋にて、3人の美しい淑女たちがお茶を楽しんでいた。

 その席で、野菊が右手を翳した。

 赤い石の嵌められた、凝ったデザインの指輪だ。

「アーティファクトっていうの? 遺跡から見つかったんだけど、これに魔力を込めると防御膜みたいなので覆われて守備力が上がるんだってぇ。だから私にちょうどいいって、シンくんがくれたの」

 えへへぇ、と笑う野菊の指に、リィと琴音が注目する。

「綺麗な石ですね。古代のものですと、相当な値打ちがあるのではないでしょうか」

「そんなものがミルトゥワに眠っているなんて……しかも全然痛んでない……すごい、見せて……」

 興味津々の二人に野菊も満足げに微笑む。

「でも野菊さん、大丈夫なんですか? 迷宮には危険な生物もいると聞きましたが」

「うん、たまにちょっと怖いけど、いつでもシンくんが護ってくれるもん。地の精霊ノームと光の精霊ウィスプをつけてくれるから、大抵の攻撃は跳ね返しちゃうよ。魔力半分くらい私に使っちゃってるんじゃないかなぁ。魔力って、全部使い切ると動けなくなっちゃうんでしょ? 倒れるんじゃないかってこっちが心配しちゃうよぉ」

「それだけ、シンが本気で野菊ちゃんを護ってるってこと……。自分の限界はわかってるだろうから、心配しないで。それに、シンは護るべきものが増えたんだし……」

 そこで、子どもたちの笑い声が聞こえてきた。

 三人ともその声に視線を向ける。勢い良く水が噴出す噴水の傍で、三人の小さな子どもたちが楽しそうに笑いあっていた。

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