ポプリ
 目が死んでいる。

 準成人を迎え、初めての公務に挑むシオンの補佐をするように頼まれていたエーリッヒ=カイル=ランドーク侍官は、シオンに夏休みの間に行われる様々な行事予定の報告をしに来た際、そのような感想を持った。

 いつもは阿呆だろうかというくらいに明るく輝いている深海色の瞳が、すっかりその色を失っている。

「……大丈夫ですか殿下。これから忙しくなりますので、体調が悪いようでしたら早めにおっしゃってください。スケジュール調整を致しますので」

「……ああ」

 夏休みに入るのと同時に与えられた執務室の机に頬杖を付く彼の返事は上の空だ。

 一体どうしたことか。

 エーリッヒはチラリとドア前に控える彼の近衛騎士に視線をやった。

 エーリッヒよりもシオンの近しいところにいるヴィルヘルム=ガルシアならば、この大事な時期に抜け殻となっている原因を知っているのではないかと思ったのだが。

 ヴィルヘルムにも原因は思い当たらないらしい。軽く頭を振られてしまった。

 父親である主ならば知っているだろうかと、エーリッヒはシンのスケジュールを思い浮かべながら予定を淡々と報告していく。

「三日後に遺跡探索チームと顔合わせ、次の日からは殿下が指揮を執り、遺跡に潜ることになります。サポートには私やヴィルヘルムも付きますし、リーダーはリィシン殿下からも信の置かれているヴァイゼルーク博士ですのでご安心を。探索は一週間を予定しておりまが、内部状況によっては多少前後することもあります。が、遅くとも3月18日までには帰れるように致します」

 地球では夏だが、ミルトゥワでは早春だった。

 惑星王の坐す皇都には精霊の力が働いているのか、雨は少ないが気候は安定していて、今も温かい風が窓から吹き込んでいる。

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