ポプリ
「3月18日……?」

「殿下の誕生日ですよ」

「……ああ」

「しっかりしてください。ご自分の誕生日も忘れたのですか」

 そういうわけではなかった。

 シオンはここ数年、自分の誕生日は『8月5日』だったのだ。地球歴ではそうで、花龍と同じだった。

 花龍の笑顔を思い出し、シオンはギリ、と奥歯を噛み締める。

「……18日は準成人の儀式で大神殿に向かいます。そこで神官長より洗礼が行われます。翌19日には両陛下、及びマリアベル皇女殿下に謁見、20日に婚約の儀が執り行われます」

 相手はマリアベルか。

 シオンはぼんやりとその顔を思い浮かべた。

 マリアベル=アリスィア=ユグドラシェル。長い紺色の髪が印象的な、儚げな美少女だ。年は少し年上だったろうか。公式行事などで何度か顔を合わせたことはあるが、まともに話したことはなかった。

 皇族の婚姻は神殿が取り仕切っている。よりよい血を遺すため、より強い者を遺すため、魔力と精霊召喚術の強さを最重視して決めているらしい。

 しかし皇家の、しかも第一皇女がくるとは思わなかった。マリアベルは皇族の女性の中でも一、二を争う魔力の持ち主だったはずだ。

「それだけ殿下には期待されているのでしょう。直系の姫君を娶られるなど、リザ公家にとってこれほどの誉れはありません」

 エーリッヒの言葉に、そうなんだろうな、とシオンは思う。

 同時に、相手が『本家』の姫なら、『分家』の自分にも、父ですら否やを言うことは出来ないな、と思った。

 ……もう断る理由など、どこにもないのだけれど。

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