ポプリ
「あまり府抜けていると勘当するぞ」

 婚約の儀の日。

 シオンの前をゆく父が厳しい言葉を投げつけてきた。シンとてシオンの落ち込みように心配はしていたが、あまりにも情けない姿を晒す息子に喝を入れるつもりの発言だった。

「……はい」

 シオンは頷きながら、こんな家に生まれなければ今頃は天神の仲間たちと、そして花龍とも、楽しい夏休みを送っていたのにと、そんな想いを胸に過ぎらせた。けれどもすぐに頭を振る。

 自分でも分かっているのだ。いつまでも引きずっていてはいけない。これでは花龍にフラれても当然だし、マリアベルや陛下にも失礼だ。

 顔を上げると、着飾った母と妹が、心配そうにシオンを見ていた。

「シオン、母さんがちゅーしてあげようか?」

「はいはい、私もちゅーしてあげる! 元気でるおまじないなんだよ!」

 野菊に続いて、シャンリーが元気よく手を上げる。

 そんな家族たちに、シオンは無理に笑顔を作った。

「大丈夫だよ。ありがとな」

 泣き言なんか、言っていられない。嘘でもいいから笑えと、言い聞かせる。



 今上惑星王であるルドルフ皇帝陛下は、父であるシンの友人でもある。

 だから厳かな婚約の取り交わしの後は、家族だけの気楽な立食形式のパーティとなった。

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