ポプリ
「マリアベルは、他に好きなヤツがいるのか」

「えっ?」

 思わずそう聞いてしまったら、マリアベルはサッと顔を赤くした後、すぐに扇子で顔を覆い隠した。

「い、いえ、わたくしは、シオン様をお慕いしております……」

「うーん、そんな感じしない」

「そ、そんなことはございません!」

「否定しなくていい。俺もそうだから」

 だから気づいてしまったのだ。ふとした瞬間に見せる哀愁の目に。楽し気に話しているのに、時折遠くを見て憂うその横顔に。

「……えっ」

 マリアベルは扇子をゆっくりと下ろし、シオンの顔をまじまじと眺めた。そして、ゆっくりと息を吐きだした。

「シオン様も……そうでございましたか」

「うん。だから気にすんな」

「そういうわけには……。わたくしはシオン様に嫁ぐと決まっていますのに」

「好きなヤツって、どうにもならないヤツ? そうじゃないなら、俺が浮気したとか言って婚約を破談にしてもいいけど」

 片思いに悩むマリアベルに自分の姿を重ねたのか。シオンはそんな提案をしてみる。マリアベルは性格の良い子だ。どうせなら好きな人と結ばれて欲しい。

 そう思ったのだが、マリアベルは目に涙を浮かべ、俯いてしまった。

「……わたくしの想いは、叶いません」

「皇族じゃないのか」

「いいえ……」

「じゃあ」

「もう、婚約者がおられるのです」

「それって神殿が決めたんだろ? 惑星王に頼んでみろよ。惑星王より偉い人なんていないんだからさ」

「それは……」

「なんなら俺から言ってやろうか?」

「それは……無理です」

「なんで……」

 そこまで言って、シオンははっとした。

 同じ皇族家が相手なら、シオンから物申しても問題にはならない。身分が同じだからだ。けれども、無理だというのなら。その身分がシオンよりも上だというのなら。

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