ポプリ
『絶対に離れていって欲しくない相手は、誰ですか?』


「シオン」

 絶対に離れて欲しくなくて、絶対に失いたくない人の名を呼ぶと、ウンディーネの冷たい水しぶきの中に温かい雫が落ちていった。

 ぱたぱたととめどなく溢れては、芝生の上に音もなく吸い込まれていく。

 どうして手を離してしまったのだろう。

 どうして受け入れなかったのだろう。

 こんなに、好きなのに。

「──……」

 突然湧き上がってきた感情に息を呑む。

 急に、視界が開けたような気がした。どこかに大事に仕舞われていた宝箱が、ぱかりと口を開けた。そんな気がした。


「おーい花龍、こいつ倒せないんだ、一緒にやってー」

 青色の携帯ゲーム機を手に、カラリと窓を開けて声をかけてきた麗龍は、大粒の涙を流しながら立ちすくむ姉を見てぎょっとした。

「な、どうした! どっか痛いのか? 気持ち悪いのか? ねっちゅーしょーか?」

 リビングの窓から裸足で庭に飛び出してきて、オロオロと花龍の周りを動き回る弟。

「だい、じょぶ」

 花龍はぼろぼろと泣きながら、頭を振った。

「だいじょーぶじゃねぇよ! えっと、えっと、シルフ召喚?」

 麗龍はオロオロしながら目の前を飛び交うウンディーネに訊ねている。

 ウンディーネたちが頷いたところで、玄関からインターフォンの鳴る音が。

「お、お客さん、お客さん、花龍をたすけて」

 オロオロしながら玄関へ走っていった麗龍は、客人が知っている人だったので、その手を引いて大急ぎで花龍のところまで戻ってきた。

「花龍ちゃん、どうしたんですか」

 訪ねてきたのは、有名菓子店のケーキの箱を持った七音だった。

 
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