ポプリ
「ああ……成程」

 七音は花龍をソファに座らせ、濡れタオルを渡した。花龍は礼を言い、泣きすぎて腫れてしまった目に当てる。その横にはお姉ちゃんが泣いているので自分まで哀しくなってしまった麗龍が、ピタリとくっついて座っていた。

「早かったですね。あと一年は……いえ、一生気付かないかもしれないと思っていました」

 花龍に断りを入れてから、対面式キッチンの向こうで紅茶を煎れ、持ってきたケーキを用意する七音。その彼の言葉に花龍は目から濡れタオルを離す。

「え……七音は、知ってたの?」

「知っていたというか……そうですね。分かりやすかったですよ」

「そう、なの?」

「はい」

 七音は頷いた。

「……私には、難しかった」

「花龍ちゃん、聡明なのに恋には疎いですからね。その部分だけなら、きっとシャンリーの方が大人ですよ」

「う……そう、かな」

 まだ幼稚園児の従妹の方が大人だと言われて複雑だが、しかし否定は出来ない花龍は肩を竦めた。その彼女の泣き腫らした目を見て、七音は痛々しそうに顔を歪めた後、わざと明るい声で話を進める。

「シオンのこと、家族みたいに好きって言ってたでしょう? 何故そんな勘違いをしたのか解ります?」

 花龍はふるふると頭を振った。そして驚きに目を丸くする。

「……七音は、それも知っているの?」

「ええ、まあ。推測にはなりますが。花龍ちゃん、覇龍闘さんのことが好きだったでしょう?」

 そう言われて、花龍は顔を赤くした。

「そ、それは、初等部までの話で……そりゃ、好き、だったけど……父上は家族だもん……」

「そう。覇龍闘さんも、家族なんですよ?」

にっこりと微笑んでそう言われ、花龍は目から鱗が落ちる心境だった。

 初恋の人だと思っていた父。それが恋愛感情でなかったことは今なら分かる。分かるけれども、その想いは、大切な、大切な思い出だ。

 人を好きになった。その相手が家族だった。幼い心の中には、それが深く刻み込まれていたのだ。

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