ポプリ
「……私、子ども、なんだね」

「そうですね」

「……七音、ひどい」

「だって本当のことです」

 花龍と七音は顔を見合わせて、同時に笑い出した。

 そうだ。子どもだったのだ。家族への親愛の情と、恋慕の情を同じところに仕舞ってしまった。まるきり子どもだった。

「……教えてあげた方が良かったですかね。後悔、しているんでしょう?」

 花龍はシオンが好きなのだと。家族としてではなく、ひとりの男の子として。ちゃんと想っているのだと、教えてあげれば良かっただろうかと七音は言う。

「……分からない。でもあの時はきっと、そう言われてもピンとこなかったと思う」

「そうかもしれませんね。言葉から感情を理解することは出来ませんから。自分の中にある想いと向き合って、初めて気づくものです。……失ってからに、なってしまいましたが」

「……うん」

 気づくのが遅かった。

 でも失ってからでないと、きっと、気付かなかった。宝箱の中に仕舞われていた、大切な想いには。

「シオンには、言わないんですか」

「うん」

 花龍は頷いた。

「私にはもう、言う資格がないよ」

 シオンを傷つけてしまったから。

 それに今頃シオンは婚約者の女性と一緒だろう。その人と一緒に歩んでいくのだろう。それを邪魔してはいけない。応援してあげないといけない。

 だから蓋の開いた宝箱はもう一度仕舞って、深い深いところに沈めておかなければ。

 そう決意する花龍に、七音は言う。

「一度開いてしまった箱は、もう空っぽなんです。それを沈めたところで、溢れ出てしまった想いを消し去ることは出来ないんですよ」

 そっか、と花龍は呟いた。

 それでもこの想いはもう表に出すわけにはいかないな、と。窓の向こうにある目に染みるような青い空を見上げながら、霞みがかった春の空の下にいる少年を想った。




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