ポプリ
「マリアベル。どうした、こんな朝から」

 声をかけるとマリアベルは立ち止まり、綺麗なカーテシーを披露した。

「ごきげんよう、シオン様。すみません、このような時間に。どうしてもお話したいことがございまして……」

 それで何の話かピンときたシオン。

「いいけど。俺これからご飯だから、一緒に食うか?」

「いえ、わたくしは済ませて参りましたので……」

「あー、じゃあ食べながらでいいか? 俺、学校あるから」

「はい、そのようになさってください」

 シオンが振り返りながら片手を上げると、近くに控えていた侍女が頭を下げた。彼女にマリアベルのためにお茶を用意するよう合図を送ったのだ。



「それで、どうした?」

 話の内容に検討がついていたので、シオンは食堂ではなく自室にマリアベルを案内した。

 そのため、シャンリーは朝食を一緒にするのを遠慮してしまった。妹に悪いことをしてしまったな、と思いながら、運ばれてきた食事に手をつける。

 小さな円卓についたマリアベルとは互いの顔がはっきりと見える距離に座った……はずなのだが、マリアベルはその椅子を後ろに、更に後ろに引いて、シオンからは大分離れた。

 ……先日の一件以来、物凄く警戒されている。もちろん、破廉恥な行為をされないようにだ。

 マナーとして扉は開け放たれているし、部屋の隅にはちゃんと侍女も控えているんだけどなー、と思いながら、シオンはスープをスプーンで口に運ぶ。天神では皿ごと持ち上げて啜ってもいいのだが、一応皇女の前であるので、食事マナーは完璧にしておく。

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