ポプリ
「……この間な。花龍に『俺の婚約者かわいいぞ、ちょっと胸揉んできたぞ』という話をしたんだ」

「この間のお話をですか……!」

 マリアベルは顔を真っ赤にした後、椅子を後ろへ、後ろへと引いていった。そんなに下がらなくても、と思いながらデザートの果物にフォークを刺す。

「そ、それで、ファロン様はやきもちを妬かれたりなどは……?」

 マリアベルは期待に目を輝かせている。

「しない。逆に怒られた。マリアベルが嫌がることはするなってさ」

「……少しも、妬かれなかったのですか?」

「うん、たぶん」

 シオンが見ている限りでは、そんな風には見えなかった。今の自分たちは幼馴染で親友。そんな感じだった。少しは妬いてくれたらいいのに、と思う。

「そうですか……」

 マリアベルはシオンに同情する。もし自分がシオンと仲良くしているのだと兄に話して喜ばれてしまったら、それはそれは哀しいだろう。

「……哀しいですね」

 しゅん、と項垂れる彼女に、シオンも寂しげに笑った。

「まあな……しょうがねぇよな」

 皿を空にして、ナプキンで口元を拭う。サイドボードの上に置かれた時計を確認する。もう登校しなければならない時間だった。

「ごめん、学校の時間」

「あっ、はい。お忙しい中お話を聞いてくださりありがとうございました。あっ、あの、シオン様!」

「ん?」

「諦めないでください。シオン様にはまだ希望があると思います。ですから……」

 シオンが諦めなければ、マリアベルも諦めなくていい。シオンに希望があるなら、マリアベルにも希望がある。そう思いたいのだ、彼女は。

 片恋をする、同志として。

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