ポプリ
「……ありがとな」

 シオンは笑顔を見せ、立ち上がる。

「あ、ゆっくりしてっていいからな。確か南側にある庭園気に入ってたよな」

「はい、宮殿の庭園も見事ですが、リザ家の庭園には見たことのない花が多いものですから、つい見入ってしまいました」

「あそこに植えてあるのは母上の故郷の花だよ。良かったらまた見て行って」

「まあ、ノギク様の。美しい花ばかりですね。是非また拝見させていただきます」

「うん」

 シオンは頷きながら、着替えるために奥の寝室へ向かう。以前マリアベルの目の前で着替えようとして盛大に悲鳴を上げられ、侍女たちからもお叱りを受けたことがあるので、別室で着替えるようになったのだった。目の前で脱ぐのも駄目? と聞いたら当然です! と大合唱が起きた。

 面倒だなー、と思いながら身なりを整える。

 天神学園は制服着用は義務付けられていないので、入学式などの式典以外は遺跡に潜るときのような、動きやすい服装で通っている。これに帯剣用のベルトを着け、ランスロットを下げる。

 鞄を持って居間に戻ると、マリアベルが立ち上がって待っていた。

「行ってらっしゃいませ」

 にこりと微笑んで見送ってくれる彼女に軽く手を挙げて応え、城の地下へと向かう。



 現在、転移魔法陣はグリフィノー家(西の離宮)と、リザ公家の地下に設置され、いずれも行先は地球の橘邸となっている。

 だからシオンとシャンリーは七音や橘家長男の結弦(ゆづる。小学六年生)と登校することが多い。


「シャンリーごめん、遅くなった」

 シオンは先に待っていた妹に謝り、そして転移魔法陣に足を踏み入れた。その足取りは軽い。

 あの世界でのシオンは『ユグドラシェル』ではない。普通の、ただの生徒でいられるのだ。

 








 片思い同盟の励まし合い会。




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